ろう者がアートに対する思考を深めるための、ろう者と聴者が共に不可視の領域に踏み出し語りあうためのプログラム。
これまでのトークセッションでは、言語や文化、身体の境界を超えて多角的な議論を交わし、一人ひとりが持つ「ろう」であることの複雑さ、ろう者の中にもある多様性、多層化をより深くまなざしてまいりました。
今年度はさらに踏み込む形でろう文化の「不可視の領域」について、さまざまな身体と空間を通して浮かび上がってくる、文化や言語によって形成されゆく見えない領域を探求し考察していきます。
2年前に開催し、好評であったろう者のための美術鑑賞ワークショップ。今回はステップアップとして、ろう者・難聴者当事者がろう者や手話をテーマとした作品への批評の思考を育む批評ワークショップを開催します。
前回に続き、抽象的なニュアンスを届けるために、手話で語るろう者のため批評ワークショップの一部にろう通訳をつける運びになりました。ふるってご参加ください。
※ろう通訳とは‥聴者通訳の手話をさらにろう者に伝わりやすい手話に通訳すること
ろう者や手話をテーマとした作品を視聴し、自分の体内に湧き出てくる感情などをすくい取りながら、それらを思考する・言語化する手段を学ぶとともに、手話で語る新しい批評の形を参加者の皆さんで探究していきます。
手話で語るろう者のための批評ワークショップ(全4回)
「批評」とは何かを考え、作品を批評するポイントや作品に対する自分の思考を深める方法などについて学びます。
第1回 2023年3月5日(日) 13:00-15:00 ※ろう通訳つき
講師:佐々木 敦 (思考家・作家)
レーベルHEADZ主宰。早稲田大学非常勤講師。立教大学兼任講師。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。文学ムック「ことばと」(書肆侃侃房)編集長。長年、芸術文化の複数の領域で、執筆、教育、企画制作などを行なっている。著書として『批評とは何か?』『批評時空間』『批評王』『アートートロジー』など多数。近著は『反=恋愛映画論』(児玉美月との共著)、『増補・決定版 ニッポンの音楽』『映画よさようなら』など。
「批評とは何か? 2023年編」
「批評」という行為/試行についての著作を持ち、過去およそ三十年にわたって、さまざまなジャンルで批評活動を行なってきた私は、2020年に「批評家」という肩書きを返上しましたが、その後も機会に応じて批評を書き続けてきました。いま改めて「批評とは何か?」を考え直してみようと思います。そこには以前は意識されていなかった新たな視座や問題意識が浮上してくるかもしれません。
ろう者のテッド・エヴァンス監督『彼について』を題材に、ろう者としての視点から、実践を通して批評を学びます。
第2回 2023年3月12日(日)13:00-16:30
講師:佐藤 譲二 (画家)
1972年生まれ。美大を卒業後、絵画制作発表の活動を始める。
個展の開催、グループ展の参加多数。現在、休筆中。
2017年の東京ろう映画祭(現在は東京国際ろう映画祭)以降、同映画祭パンフレットのレビュー執筆を担当する。
「ろう者が批評するということ」
ろう者である私は映画や美術などの作品に対して曲がりなりにも「日本語」で考えてきました。その際、書き言葉としての「日本語」と話し言葉としての「手話」のあいだに横たわるジレンマにいつも直面します。それはやがて「ろう者であること」と「作品を観ること」の関係そのものに対する思考へとつながっていきます。ろう者監督の映画を同じ場で共有することから出発し、批評について考えていきたいと思います。
「彼について」監督:テッド・エヴァンズ
2018年/イギリス/イギリス手話・英語/28分 字幕提供:東京ろう映画祭実行委員会 ©️BSL BT
パートナーであるロバートを突然事故で亡くしてしまうサラ。悲しむ彼女は医者に彼を引き取りたいと伝えるが、両親がいないはずの彼の父に連絡したというー『THE END』で話題になったテッド・エヴァンズ監督のヒューマンドラマ新作。第21回ブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワード 最優秀英国短編賞受賞。
飯山由貴監督『オールドロングステイ』を視聴し、批評を実践します。その上で作品を制作したアーティストから解説いただきます。批評をブラッシュアップした後に佐々木敦氏と佐藤譲二氏からフィードバックをいただき、思考を言語化する力を高めます。※『オールドロングステイ』は第3回までに各自オンラインで視聴していただきます。
「オールドロングステイ」監督:飯山由貴
2020年/日本/日本手話・日本語/170分
日本に生まれ育ち、税金を納めても、帰化をしても、生活の最低保障である年金をもらうことができないー。ある年齢以上の外国籍の障害者に対しては障害年金が支給されないという理不尽な差別に対し、2000年3月、在日コリアンのろう者7名が京都地方裁判所で裁判を起こす。監督は原告と支援者へのインタビューや過去の記録映像を通して「障害」と「民族」の歴史的かつ政治的な問題に向かい合っていく。ヨコハマトリエンナーレ2020にて制作・上映。
第3回 2023年3月21日(火・祝)13:00−15:00
ゲスト:飯山 由貴 (アーティスト)
映像作品の制作と共に、記録物やテキストなどから構成されたインスタレーションを制作している。過去の記録や人への取材を糸口に、個人と社会、および歴史との相互関係を考察し、社会的なスティグマが作られる過程と協力者によってその経験が語りなおされること、作りなおされることによる痛みと回復に関心を持っている。 近年は多様な背景を持つ市民や支援者、アーティスト、専門家と協力し制作を行っている。
第4回 2023年3月26日(日) 13:00-15:00
講師:佐々木 敦 (思考家・作家) / 講師:佐藤 譲二 (画家)
プロフィールの詳細は第1回・第2回をご参照ください。
会場:トット文化館
〒141-0033 東京都品川区西品川2-2-16
最寄駅:JR山手線・大崎駅から徒歩8分 / 東急大井町線 下神明駅から徒歩10分
参加費:無料
対象:高校生以上のろう者・難聴者10名 (※定員に達した場合は抽選)
<参加条件>
・ろう者・難聴者であること。
・第1、2回に必ず参加できる方。(※全回参加者を優先とします)
※手話で進行します。
※講師の都合により内容変更の可能性があります。ご了承の上お申込み下さい。
※意見や感想、批評を発表する手段は、手話とします。
※文字の情報保障はつきません。第1回で必要な方は事前にご相談ください。
※関東外に在住している方でご参加希望の方はご相談ください。
※聴者のご参加とご見学はお断りさせていただいています。
参加申込締切日:2023年2月19日(日)
ろう者と聴者のためのトークセッション(全2回)
日時:2023年2月25日(土)13:00-15:00
会場:トット文化館
〒141-0033 東京都品川区西品川2-2-16
最寄駅:JR山手線・大崎駅から徒歩8分 / 東急大井町線 下神明駅から徒歩10分
登壇者:江副悟史・安田登・米内山明宏
参加費:1,000円
参加申込締切日:2023年2月21日(火)(定員30名)(申込受付後に振込先をご案内します ※定員に達しました。お申し込みいただき、ありがとうございました。
第1回「伝統芸能とろう者の身体性」
江副悟史 (俳優)
東京都出身。日本ろう者劇団に入団後、手話狂言や自主公演などに出演。2010年3月までNHK「こども手話ウイークリー」のキャスターを務める。映画『獄に咲く花』で杉敏三郎役を演じる。3.11震災後にネット手話ニュース「DNN」を立ち上げる。(現在休止中)2017年より日本ろう者劇団の劇団代表を務める傍ら俳優、講演、手話表現者、手話監修、手話弁士、キャスターなど幅広く活動中。
安田登 (能楽師)
能楽師(ワキ方下掛宝生流)。東京を中心に能の公演に出演。また、神話『イナンナの冥界下り』での欧州公演や、金沢21世紀美術館での『天守物語(泉鏡花)』の上演、島根の神楽を取り入れた『芸能開闢古事記』など、能・音楽・朗読を融合させた舞台を数多く創作、出演する。手話による能や手話を交えた語りなどの公演にも出演。100分de名著『平家物語』・『太平記』講師・朗読。著書多数。関西大学特任教授。
米内山明宏 (俳優 / 演出家 / 映画監督 / 手話弁士)
The National Theatre of the Deaf(アメリカろう者劇団)の契約俳優として84カ所ツアー公演。手話狂言で文化庁芸術祭賞受賞。池袋演劇祭アゼリア大賞など劇団代表として受賞多数。演劇、映画、TVなどの手話指導、手話監修も多く、「プライド」「手話は語る」など著書多数ある。
ろう演劇の第一人者である米内山明宏さん、長年手話狂言に取り組まれている江副悟史さん、能楽師で日本人の身体性を研究されている安田登さんをお招きし、引き継がれてきた伝統芸能と視覚言語である手話を融合させた手話狂言の取り組みを通して、日本人特有の身体性や古典の動作、ろう者と聴者の身体感覚の違いなどについて語り合い、不可視の領域に迫っていきます。
【ご登壇者変更のお知らせ】
ご登壇いただく予定だった米内山明宏氏がご逝去されました。ご生前の多大なご功績を偲び、謹んで哀悼の意を捧げます。
つきまして安田登氏と江副悟史氏のお二人で実施する運びとなりましたので、あらかじめご承知おきくださいますようお願い申し上げます。
日時:2023年3月25日(土)17:00-19:00
会場:Zoom(オンライン)
登壇者:福島愛未・中川エリカ
参加費:1,000円
参加申込締切日:2023年3月21日(火)(申込受付後に振込先をご案内します)
1983年東京都生まれ。2005年横浜国立大学建築学科卒業。2007年東京藝術大学大学院建築設計専攻修了。2007年~2014年オンデザイン勤務。主な作品に「ヨコハマアパートメント*」(2011年度JIA新人賞、第15回ヴェネチアビエンナーレ国際建築展 国別部門特別表彰)、「桃山ハウス」(住宅建築賞2017金賞、第34回吉岡賞)など。
*は、西田司/オンデザインと共同設計。
第2回「ろう者の身体と空間デザイン」
中川エリカ (建築家)
福島愛未 (Frontrunners在学中)
筑波技術大学で建築を学ぶ。在学時の米国研修でGallaudet Universityを訪れ、ろう者の行動様式にあったDeafSpace Designを知ったことをきっかけに渡米を決意。日本財団聴覚障害者海外奨学金事業の助成を受け、Gallaudet UniversityでDeafSpace Designを学びながら、DeafSpace Designを取り入れたキャンパス計画を実施するオフィスでインターンシップを行う。帰国後、筑波技術大学大学院で日本におけるDeafSpace Designを研究。現在は、デンマークのFrontrunnersでDeafSpace Designを広めるための映像制作技術を学ぶと共に、欧米諸国のDeafSpace Designを視察中。
ろう者のための空間デザイン・デフペースデザインを研究されている福島愛未さん、等身大の身体を起点に内と外の境界線を乗り越えた建築のあり方を模索されてきた建築家の中川エリカさんとともに、身体的思考から空間を創ることとは何か、そして聞こえない身体と空間の関係性を探っていきます。
ろう者と聴者のためのトークセッションでは全て手話通訳とUDトーク(文字情報)がつきます。
<モデレーター>
田中 みゆき キュレーター
「“障害”は世界を捉え直す視点」をテーマにカテゴリーにとらわれないプロジェクトを企画。表現の見方や捉え方を障害当事者を含む鑑賞者とともに再考する。近年の仕事に「音で観るダンスのワークインプログレス」(KAAT神奈川芸術劇場、2017-2019年、城崎国際アートセンター、2021-2022年)、「ルール?展」(21_21 DESIGN SIGHT、2021年)、展覧会「語りの複数性」(東京都渋谷公園通りギャラリー、2021年)、「オーディオゲームセンター」(2017年~)など。アジアン・カルチュラル・カウンシルの助成を得て2022年7月から12月までニューヨーク大学客員研究員。
<企画・進行>
管野奈津美 プロジェクトマネージャー
学生時代、現代陶芸に出会ったのをきっかけに、自らろう者としての立場からの表現活動に興味をもつ。日本財団聴覚障害者海外奨学金事業の奨学生としてギャロデット大学大学院ろう者学部にて、ろう者の芸術表現や欧米におけるデフアートの歴史についての研究を行った。現在は美術・デザインの教育に携わる傍ら、ろう芸術の発信、ろう者の身体や感覚についての可能性を模索。Re; Signing Project代表。
<企画・進行>
徳江サダシ グラフィックデザイナー
1976年、岩手県生まれ。東北芸術工科大学デザイン工学部修了。20年間グラフィックデザインを主な生業としてきた。2016年度国際アビリンピック(フランス開催)にて英文DTP部門の銅賞を受賞。現在、“美術・芸術作品に触れる”がライフワーク。成人後に手話と出会い主な言語としながらも、様々な作品を通して自分にとっての“ろう”とは何か、常に自問し続けている。「自分と出会いたい」を信条としている。(社福)全国手話研修センター勤務の傍ら、ロゴ・パンフレット等グラフィックデザイン制作活動にも携わっている。